June 23, 2009

Cheer up! when you feel down...

Litaliana_in_algeri気分が滅入ったり落ち込んだとき、暗い音楽を聴くのが良いという識者もいるようだが、個人的にはやはり明るく楽しい音楽を聴いて元気(たとえ空元気でも)を出したいと思う。

人によってそれぞれ感じ方に違いはあるであろうが、貴方がもしクラシック音楽を聴くことに抵抗がなければ、太鼓判を押せるのはロッシーニのオペラ・ブッファ(コミック・オペラ)である。個人的に特にお勧めするのは「アルジェのイタリア女」(L'Italiana in Algeri)である。時代に遅れてやってきた天才ロッシーニが21歳のとき1ヶ月あまりで書き上げたスピード感や笑いと素晴らしいメロディに満ちあふれた超傑作オペラである。

ストーリは荒唐無稽で、いわゆるオペラにありがちな深刻な恋愛模様もなく、ひたすら笑える内容である。ドタバタ喜劇ではあるが、演じる歌手たちにとっては超絶技巧の歌唱力と演技力が要求される非常にやっかいなオペラでもある。

このオペラ、どこを聴いても元気をもらえるがその真骨頂ともいえるのは第一幕のフィナーレである。意味不明な歌詞での騒々しい重唱が繰り広げられるシーンはイタリア語など全く分からなくとも笑えること請け合いである。

個々の歌手にあてがわれた超絶技巧を要するソロのアリアも素晴らしいのだが、このオペラではそれ以上に重唱の部分が見事である。その中でもとりわけ個人的に大好きなのが、主役のイザベッラ(メゾ・ソプラノ)とタッデーオ(バス)の二重唱である”Ai capricci della sorte”(運命のきまぐれに)。乗り合わせていた船がアルジェリアで海賊に襲われ、今後の成り行きにくよくよ心配を巡らすタッデーオに対しイザベッラは成るようにしかならない(sarà quel che sarà)と全く意に介さない。いつの世も女性は強い!

Youtubeにこのデュエットの稀代の名演奏とも言うべきヴィデオがアップロードされているのでご紹介しておく。特にイザベッラを歌うマリリン・ホーンは20世紀のロッシーニ・ルネサンスを主導したアメリカ出身の世界遺産・人間国宝級のメゾ・ソプラノ。若い時に比べ、時として凶暴ともいえる声の威力は減じたものの代わりに柔軟性を獲得しており後半に展開されるアジリタのテクニック(07:20~)は全く衰えていない。

冒頭のレチターヴォの部分が退屈な方は、01:20からこれぞロッシーニという単純ながらも躍動感あふれるメロディを楽しんで頂けると思う。


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February 20, 2006

Beim Schlafengehen

いやはや、昨年と同様な轍を踏み「Blog冬眠症候群」を罹ってしまい、わざわざご訪問頂いた皆さまのご期待(?)を裏切ってしまい誠に申し訳ない次第でここに謹んでお詫びさせて頂きます。何卒、ご容赦のほどを。

何度目の復活か本人自身も定かではないのだが、復帰第一弾は昨日(1月19日)に久しぶりに聴きに伺ったアマチュア・オーケストラ「ザ・シンフォニカ」の第39回定期演奏会の話題。


ザ・シンフォニカ第39回定期演奏会

日時 2006年2月19日(日)14:00~
場所 すみだトリフォニーホール 大ホール

ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲
R.シュトラウス:四つの最後の歌 (ソプラノ:大倉由紀枝)
プロコフィエフ:交響曲第5番

指揮 山下 一史


このオーケストラはアマチュアとしてはハイ・スタンダードを維持しており、概ね期待を裏切らない演奏を聴かせてくれる。時としてプロのオーケストラがルーティンに堕した時の演奏よりも「感じた」演奏を繰り広げる場合も間々ある。古くからの知人の何人かも所属しており、時々弊blogにコメントを頂く『奥田安智』氏から「今度の定演では、リヒャルト・シュトラウスの四つの最後の歌を演る」という連絡を頂き、一も二もなく演奏会に駆けつけた。

自ら以前よりオペラを中心にシュトラウス好きを公言しているのだが、この作曲家の最晩年の作ともいえる「四つの最後の歌」(Vier letzte Lieder)は格別の大好物で3度の飯よりも好きかもしれない(ちょっと大袈裟?)。個人的にはシュトラウスといえば「ソプラノ」と「ホルン」に尽きると信じて疑わないので、「薔薇の騎士」「カプリッチョ」、そしてこの「四つ最後の歌」は正に好みのど真ん中ともいえる存在である。この作曲家の人生観照の歌ともいえるオーケストラ伴奏の連作歌曲の中でも通常3番目に歌われる「Beim Schlafengehen」は特段の気に入りの作品である。

今回のソリスト大倉由紀枝女史は、実際のオケをバックにしてこの曲を歌うのは初めてとか。声の質はいわゆるリリコ・スピント(個人的にはハイ・ソプラノで歌われるのも好きであるが)でこの曲を歌うには申し分ないのだが、ご本人が歌詞のニュアンスを大切にするあまり慎重になったのか、あるいは聴いていた席の位置のせいか、期待していたほどには声が届いてこなかったのは残念であった。

父親がバイエルン歌劇場のホルンのトップを務めていたためかシュトラウスはオーケストラ、とくにオペラにおいてホルンを非常に効果的に使い美しい旋律の数々を遺しているのは夙に有名である。この「四つの最後の歌」の「September」と「Beim Schlafengehen」の最後にホルンの聴き所がある。我が畏友の奥田氏のソロであるが、曲の構成的に後出しジャンケン風な「September」においては見事に直球ど真ん中を突いたストライクを決めた!ご本人曰く「ホルン吹き泣かせ」の「Beim Schlafengehen」では惜しくも僅かに高めハズレたか?というのが無責任な素人的感想である。演奏後、奥田氏は「個人的には悔いが残る」と仰っておられたのだが、これは恐らく「Beim Schlafengehen」の方ではなかったかと拝察した。しかし、素人が推察するのは甚だ失礼にあたるとは思うが、この楽器の名手であるストランスキーやペーター・ダムの音がひっくり返った演奏を聴いたこともあるので、あの程度なら全く問題ない。(常に完璧だったと想像できるのは、デニス・ブレインくらいか?)尚、コンサート・マスターの森田氏が「Beim Schlafengehen」で見事なソロ・ヴァイオリンを聴かせてくれたとこも付言しておく。

ブラームスのハイドン・ヴァリエーションでは木管や弦がやや「暖まって」いないかな?という印象もあったが、プロコフィエフの5番のシンフォニーではこのオケの実力が遺憾なく発揮されたといえる。社会主義リアリズムに帰依して作曲されたと言われている、この曲であるが第2楽章などでは時として人の気持ちをはぐらかすようなプロコフィエフ独特のモダニズムを感じさせる旋律を楽しむことができた。



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January 13, 2006

Obituary ~ Birgit Nilsson

Birgit Nilsson, Soprano Legend Who Tamed Wagner, Dies at 87 (N.Y.Times)

Nilsson20世紀後半の最高のワグネリアンでドラマティック・ソプラノの一人である、ビルギット・ニルソンBirgit Nilsson)が昨年の12月25日に出身地であるスウェーデン南部のVästra Karupで亡くなった。享年は87歳。

彼女はオペラの公演では1967年の大阪フェスティヴァル・ホールでのバイロイトの引っ越し公演(但し、オケはN響)の「トリスタンとイゾルデ」、そして1980年のヴィーンのシュターツオパーの「エレクトラ」で来日したことがある。彼女の経歴に関しては、上記のN.Y. Timesの追悼記事や日本語版Wikipedia英語版Wikipedia、そして弊blogで彼女の誕生日に書いたエントリ”The nordic icy Diva”をご参照ください。

かつて、第二次大戦後の代表的なワグネリアン・ソプラノであった、ニルソン、メードル、ヴァルナイの3人が集まってバイエルン放送のTV番組で語り合った内容が文章に起こされているサイトがあるのでご紹介しておく。英語ではあるが、非常に興味深いことが語られている。



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December 23, 2005

Winter Lounge

winter_loungeクリスマス・アルバム・シリーズ第5弾は、前回の山下達郎の”Season's Greetings”に続いてJ-POPのオムニバス・アルバム。この”Winter Lounge”は杉真理がリーダとなって企画された当時のCBSソニー所属のJ-POPアーティスト達が参加したアルバム。1986年に発表されたのだが長らく廃盤となっており2002年に復刻された。”Yellow Christmas”のプロモーション・ヴィデオのDVDのオマケ付きの復刻盤は、Limited Editionだったようで現在は入手は困難。

日本語で本格的にロック・ポップスを歌う第1世代がティンパンアレー大瀧詠一であったとすれば、その路線をよりポップに明るく軽い方向に進めたのが謂わばその第2世代にあたるこのアルバムに参加したアーティスト達である。山下達郎は”Season's Greetings”ではかなりシリアスに”クリスマス”と対峙した曲を取り上げているが、このアルバムはあくまでも彼らがあの時代をちょっとお洒落に表現した”日本のクリスマス”である。

オムニバスとはいえアルバムのトーン全体は、杉真理の軽快で明るくポップでちょっとセンチメンタルな雰囲気が支配している。個人的にはちょっと外れ気味で怪しいPizzicato Vの”KISS KISS BANG! BANG!”あたりが好みであるが、楠瀬誠志郎が情感豊かに歌う”Party's over”もなかなかの聞き物である。翌年の夏にはこのアルバムの夏ヴァージョンともいえる”Summer Lounge”がリリースされたが、こちらは現在でも廃盤中の模様。バブルの絶頂に向けてのある種の屈託のない世相の一面が反映されており、微笑ましくも懐かしさを感じさせてくれるクリスマス・アルバムである。

Winter Lounge

1. WINTER LOUNGE / INSTRUMENTAL
2. Yellow Christmas / ALL STARS
3. LONELY DECEMBER / 須藤 薫
4. Christmas in the air / PSY・S
5. かってなバイブル / Hi-Fi SET
6. Wonderful Christmas / THE DREAMERS
7. 再会(AGAIN) / 南 佳孝
8. Party's over / 楠瀬 誠志郎
9. 最後のメリー・クリスマス / 杉 真理
10. Kiss,Kiss,BANG! BANG! / Pizzicato V
11. WINTER LOUNGE(Reprise) / INSTRUMENTAL
12. くつ下の中の僕 / ALL STARS




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December 17, 2005

Season's Greetings from Tatsuro Yamashita

seasons_greetings_少々間が空いてしまったが、クリスマス・アルバム・シリーズの第4弾。いわゆるJ-POPとカテゴリされる歌手のアルバムをまともにご紹介するのは「擬藤岡屋日記」ではこれが初めてである。1993年に発表された山下達郎のこの”Season's Greetings”はこれまで日本の歌手によって歌われたクリスマス・アルバムの中でも最上質なものの一つであると確信している。

当初はそれまでに出していた”On The Street Corner 1 & 2”のように、アルバム全編をアカペラで構成するつもりであったようだが、かねてからの念願であったドラムレスでストリングス付きのフル・オーケストラをバックにした歌唱の録音も行った。これで華やかな彩りと音楽的な厚みが加わり、このアルバムを傑作たらしめた要因の一つだと言える。山下のオリジナルはロング・セラーとなり、今や日本のクリスマスの定番ソングともなっている”クリスマス・イブ”の英語バージョンのみで、その他は伝統的なクリスマス・キャロルや山下自身がこれまで親しんでいたクリスマス・ソングを中心にこのアルバムは編成されている。

かつてマリオ・ランツァが歌った、”Be My Love”はオーケストラとコーラスをバックにオープンに歌いあげており、ゴージャスかつノスタルジックな雰囲気が横溢しており印象的な作品に仕上がっている。山下の最も好きなクリスマス・ソングであるという”Have Youreslf A Merry Little Christmas”も同様のフォーマットであるが歌唱そのものにはよりインティメートな空気がある。流石に、山下達郎だけあってしっかりと、”Just A Lonely Christmas”と”Happy Holiday”のドゥー・ワップ・ソングから2曲を入れ込んでいる。クリスマス・キャロルに関しては、「自分に歌う資格云々」などと述べているが、ストレートかつ真摯に歌っている。

オリジナルの”クリスマス・イブ”はアラン・オデイによって日本語の原詩にほぼ忠実な英語の歌詞がつけられている。内容的には若干コンサーヴァティヴな感じを抱かれる方もおられようが、そもそもクリスマスとはそういうものである。山下達郎の丁寧な仕事とその高い完成度を聴くにつけ、良いものは良いと言わざるを得ない。

Season's Greetings from Tatsuro Yamashita

1.Acappella Variation On A Theme By Gluck
2.Betta Notte
3.Be My Love
4.Angels We Have Heard On High
5.Smoke Gets In Your Eyes
6.Silent Night
7.My Gift To You
8.It's All In The Game
9.Just A Lonely Christmas
10.Happy Holiday
11.Blue Christmas
12.White Christmas
13.Christmas Eve
14.Have Youreslf A Merry Little Christmas
15.O Come All Ye Faithful



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December 09, 2005

Christmas Greetings ~ Julens sånger

christmas_greetingsクリスマス・アルバム・シリーズの第3弾。本来は違うアルバムをご紹介する予定だったのだが、日頃のCDの整理が悪く発見できず、偶然手にしたのがこの”Christmas Greetings ~ Julens sånger”。内容はスウェーデン出身で20世紀後半に活躍した最高のドラマティック・ソプラノ、ワグネリアンの一人と絶賛を浴びていたビルギット・ニルソン(Birgit Nilsson)とドメスティックに活躍していたヘレーナ・ドーセ(Helena Döse、ソプラノ)、トード・スレッテガード(Tord Slättegård、テノール)、そしてかつてデューク・エリントンと共演し一部のジャズ・ファンの間ではその名が知られているアリス・バブス(Alice Babs、ソプラノ)達が歌った録音を寄せ集めた北欧はスウェーデンのクリスマス・アルバム。ジャズ・シンガーと知られているアリス・バブスもここではクラシックを歌っている。”Julens sånger”はスウェーデン語でクリスマス・ソングの意味。

このアルバムの目玉ともいえるニルソンの録音は1963年と正に彼女が世界中のオペラ・ハウスで飛ぶ鳥を落とす勢いの全盛期のものであり、クリスタルを思わせるあの特徴のある透明な声でグスタフ・ヴァサ教会のオルガンをバックに立派な歌唱を聴かせてくれる。あえて難を言えば、彼女自身はオペラを歌うときよりは大分抑制はしているようだが、やはりクリスマス・ソングにしてはややスケールが大きすぎて立派するぎることか?時として悲劇のヒロイン、戦乙女のブリュンヒルデが無理矢理の笑顔を作ってキャロルを歌っている風情がなきにしもあらず。

それに比べ、イェーテボリ生まれのヘレーナ・ドーセはややスピントが効いたリリック・ソプラノで如何にも教会で聴く(こちらもストックホルムのグスタフ・ヴァサ教会での録音)クリスマス・キャロルという雰囲気に溢れた端正な歌唱を聴かせてくれる。ニルソンのオペラティックな歌よりはずっとインティメートな気分にさせてくれる。トード・スレッテガードは決して輝かしい声の持ち主ではないがリリカルで甘さと清潔感を漂わせた声で淡々と歌っているのが好印象である。特にシベリウスのクリスマス・ソングでは北欧の雪に覆われた教会でのクリスマスという雰囲気が良く出ている。

アリス・バブスは柔らかなリリック・ソプラノでバッハの「イエスよ、汝はわがもの」(BWV470)、「イエスよ、わが信仰の誉れ」 (BWV472)、「御身がともにあるならば」 (BWV508、バッハの作ではないという説もある)とモーツァルトの有名なモテット「踊れ、喜べ、汝の幸いなる魂よ」を歌っているが、時として声の支えが甘くなる(特に高域で)ことがあり、フォーカスがぼやける瞬間が間々ある。スケール感はないものの、いかにも癒し系の歌唱を聴かせてくれる。

このCDを持っていたこと自体、自分自身でも忘れており、思わぬ掘り出しもを手にした気分になった。しかし残念ながらこのアルバムはかつてスウェーデンのBlue Bellレーベルから出され(恐らくLP?)、その後Swedish Societyから発売されたものであるが、ネットで調べてみるとやはり現在は廃盤になっている。超名盤という訳ではないが、北欧(スウェーデン)のクリスマスという雰囲気を楽しむという意味では、中古盤で見つけられた場合は購入しても決して損はないと思う。

en_klassisk_julただ、不思議なことを発見した。このCDはSwedish SocietyのSCD 1018という番号なのだが、現在はこの番号は”En Klassisk Jul”(英語のタイトルはChristmas Greetings From Sweden)というタイトルとなっており、一部旧SCD 1018からの録音も含まれているが、異なったCompilationになっており、全く違うアルバムである(こちらも現在廃盤か、入手はあまり容易ではないようである)。この同一カタログ番号で異なるアルバムの存在、もし事情に詳しい方がおられればお教え願いたいものである。

Christmas Greetings ~ Julens sånger(Swedish Society SCD 1018)

Birgit Nilsson
1.Ave Maria - J.S.Bach-C.Gounod
2.O Helga natt O holy Night - A.Adam
3.Panis angelicus - C.Franck
4.Stilla natt Silent Night - F.Gruber-J.Mohr

Helena Döse
5.Care selve from Atalanta - G.F.Handel
6.Hark! The Herald Angels Sing - F.Mendelssohn-Bartholdy
7.Jerusalem, die der tötest die Proheten from St. Paul - F.Mendelssohn-Bartholdy
8.Betlehems stjärna The Stars of Bethlehem - Alice Tegnér

Tord Slättegård
9. Psaltare och Lyra Psaltery and Lyre - G.Nordqvist - E.A.Karlfeldt
10.JulvisaChristmas Song - J.Sibelius-Z.Topelius
11.Cavatina: Sei getreu - F.Mendelssohn-Bartholdy

Alice Babs
12.Jesu, Jesu, du bist mein(BWV 470) - J.S.Bach
13.Gott, wie gross ist deine Güte(BWV 462) - J.S.Bach
14.Bist du bei mir(BWV 508) - J.S.Bach
  Exsultate jubilate(KV 165) - W.A.Mozart
15.Allegro
16.Recitativo
17.Andante-Allegro non troppo



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December 06, 2005

An Old Met Christmas

先にご紹介したザ・シンガーズ・アンリミテッドのクリスマスがアカペラのモダーンかつ瀟洒な雰囲気に溢れたアルバムとすれば、今回ご紹介するのはその対局ともいえる超クラシカルでフランス料理に例えれば伝統的なこってりとした味わいのクリスマス・アルバム。

an_old_met_christmasこの”An Old Met Christmas”は1987年に”A New Met Christmas”(確かこういうタイトルだった思う)とともにMetropolitan Opera GuildからBMGを通じてリリースされたアルバムである。Googleで検索を掛けてみたのだが、どちらも既に廃盤になっているようであり、John McCormack Societyのサイトのこんなページしか引っ掛からなかった。オペラファンの方にはタイトルから容易に想像がつくように、このアルバムはかつてニュー・ヨークのメトロポリタン・オペラを彩った名歌手達が歌うクリスマス・ソングを寄せ集めてCD化されたものである(殆どがかつてはRCAなどからリリースされていた録音である)。

”Old”と”New”は単に古い新しいという意味ではなく、1966年に現在のリンカーン・センターにオープンしたオペラ・ハウスを”New Met”と呼び、それ以前の1883年の創設以来ブロードウェイの39th Streetにあった建物が”Old Met”と呼ばれている。従って、このアルバムには主として”Old Met”で活躍したスター・オペラ歌手の歌うクリスマス・ソングが集められている。残念ながら”New”のCDは入手し損なったので詳細は分からないのだが、”New Met”で活躍したオペラ歌手たちのクリスマス・ソングが集められていたはずである。

この”Old”に集められた録音の年代のスパンは非常に広く、1916年から1968年に及んでいる。アルバムの冒頭では、20世紀初頭のゴールデン・エイジを代表するKing of Tenorであるエンリコ・カルーソによる19世紀のフランスのユダヤ人作曲家アドルフ・アダムによる最もポピュラーなクリスマス・キャロル一つ、原題で”Cantique de Noël”(英語では”O Holy Night”)を意外ともいえる恣意的な歌い崩しもなく思いのほか端正な歌唱を聴くことができる。2曲目はドイツ・オペラにおいては比類なき名ソプラノと称えられたロッテ・レーマンによる”O Come All Ye Faithful”は、彼女の歌手としては晩年期の録音であり揺蕩う夕映えを思わせる人生観照の歌唱を堪能することができる。そして、1955年に黒人歌手としは初めてメトロポリタン・オペラにヴェルディのオペラ「仮面舞踏会」のウルリカ役で登場したアルト歌手、マリアン・アンダーソンの”Angel's Song”もスピリチュアルな名唱である。

現在廃盤中なので、このアルバムをお勧めすることはできないのだが、正直なところ個人的にはこれを全部聴き通すには少々カロリーが高すぎるという印象を持ったことも事実である。

1.Adam Cantique de Noël - Enrico Caruso
2.Wade O Come All Ye Faithful - Lotte Lehmann
3.Yon Gesú Bambino - Giovanni Martinelli
4.Humperdinck Weihnachten - Ernestine Schumann-Heink
5.Traditional The Holy Child - John McCormack
6.Schubert Ave Maria - Rosa Ponselle
7.Brooks-Redner O Little Town of Bethlehem - Richard Crooks
8.Gruber Silent Night - Helen Traubel
9.Bucky Angel's Song - Marian Anderson
10.Bach-Gounod Ave Maria - Patrice Munsel
11.Traditional Es blühen die Maien - Hilde Gueden
12.Willis-sears It Came Upon the Midnight Clear - Brian Sullivan
13.The Friendly Beasts - Risë Stevens
14.Traditional God Rest Ye Merry,Gentlemen - Eileen Farrell
15.Franck Panis Angelicues - Franco Corelli
16.Traditional The First Noël - Roberta Peters
17.Traditional Angels We Have Heard on Hiigh - James McCracken
18.John Jacob Niles I Wonder as I Wonder - Dorothy Kirsten
19.Adam O Holy Night - Leontyne Price



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December 03, 2005

Peace! ~ From The Singers Unlimited

12月に入り、今年も余すところ1ヶ月を切った。例年の如く、クリスチャンが大勢を占めているわけでもないのに街中はクリスマスの雰囲気を感じさせるディスプレイに満ちあふれている(東京だけ?)。やはりクリスチャンではないが季節感をお届けする意味で、今月中は音楽に関してはクリスマスに関連した話題をご提供しようと思う。

christmas_the_singers_unlimited現在ちょっと気が滅入る本を読んでいる最中なので、癒し系ともいえるクリスマス・アルバム(とは言っても殆どが癒やし系なのだが・・・)のご紹介。アカペラやオスカー・ピーターソンとの共演でかつてMPSの録音で大活躍していたザ・シンガーズ・アンリミテッド(The Singers Unlimited)の”Chiristmas”。このグループ、大活躍といってもオーヴァー・ダビングという手法によってアルバムを作り上げるため、あくまでも録音の世界だけであって、聴衆を目の前にしたライヴ活動は一切行っていなかった(というか、不可能)。4人のメンバーのうちリーダーのジーン・ピュアリング(Gene Puering)とドン・シェルトン(Don Shelton)が1950年代に活躍していた男声コーラスグループ「Hi-Lo's」に在籍していたため、そのモダンでニートなスタイルを継承したグループである。

70年代初頭から15枚のアルバムを出し、81年のリリースを最後に活動終了(停止?)した。この”Chiristmas”を除いて、14枚のアルバムは1998年に”Magic Voices”とういうタイトルのボックス・セットが発売された。このセットをかつて入手したが、流石にMPSのオーナー自身自らリマスターしただけあって、音質は非常にクリアアップしていた。マンハッタン・トランスファーやTake 6など後続のジャズ・コーラスグループにも多大な影響を与えたこのザ・シンガーズ・アンリミテッドの作品は、録音上のテクニックを駆使した「作り物」とはいえ全てが見事な出来映えである。

但し、ご紹介するこのアルバムは所謂「ジャズメンの演るクリスマス」を期待すると肩すかしをくう。オーヴァー・ダビングを駆使して、昔から有名なイングリッシュ・キャロルや1954年に早逝したジャズ・トランペッターであるアルフレッド・バートの作品を全てアカペラでストレートに歌いあげており、オーソドクスな教会の聖歌隊とも一味違ったインティメートな魅力に溢れている。アルバムの解説で次のように述べられているがこの内容と雰囲気を良く伝えている。

”・・・, of warm family friendship and of the cozy atmosphere of winter in Michigan.”

アルバムのラストの”Have Yourself A Merry Little Christmas”の最後に

From the Singers Unlimited,Bonnie Herman,Don Shelton,Gene Puering, and Len Dresslar. Peace!
という誠にチャーミングかつ心温まるボニー・ハーマンからのメッセージを聴くことが出来る。


P.S.
久しぶりにザ・シンガーズ・アンリミテッドのファンサイトにアクセスしたら、トップページにいきなりレン・ドレスラーの訃報が掲載されていた。合掌。




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November 29, 2005

Belle nuit, ô nuit d'amour

近頃、書きたい(言いたい)ことは多々あるのだがなかなかエントリとして纏められず、このまま再び冬眠状態に陥ってしまう危険が無きにしもあらずなので、取りあえずは手近にあったCDをネタにしたエントリ。アメフトの後にはいかにも座りの悪い話題ではあるがご容赦のほどを。

otter_offenbach以前に”Watercolours”というエントリでも取り上げたスウェーデンの”Cool Beauty”、アンネ・ソフィー・フォン・オッターの”Anne Sofie von Otter sings Offenbach” 。その内容はアルバムタイトルの通り、オッターがマルク・ミンコフスキー指揮ルーブル宮音楽隊(Les musiciens du Louvre、もっとましな日本語訳はないのか!?)のサポートを得てジャック・オッフェンバックのオペレッタやオペラの中からエール・シャンソン・バラードなどを歌ったものである。

音楽界で話題になっているかどうかは寡聞にして知らないが、近年のヨーロッパのオペラハウスでは”オッフェンバック・ルネサンス”の兆候がなにきしもあらずの状況を感じる。以前足繁く通った、アレクサンダー・ペライラ率いるチューリヒ歌劇場におけるアーノンクールのイニシアティヴによる一連のオッフェンバック・オペレッタ上演がハイ・スタンダードであることは一部の筋では良く認識されおり、これが一つの極とすれば、もう一方がフランスにおけるこのマルク・ミンコフスキーによる活動であろう。

1819年ドイツのケルンに生まれたオッフェンバックは本名をヤーコプ・レヴィ・エーベルストというユダヤ人で、1833年にチェロを修めるためにパリに赴きそのまま当地で作曲家として活躍した。フランス革命後紆余曲折はあったものの近代市民社会が形成され、芸術の主たるパトロネージュがそれまでの王侯貴族からブルジョワジーに移行した頃のオペレッタの生みの親とも言うべき作曲家であった。ある意味では音楽的サブ・カルチャの元祖的存在ともいえ、当時の彼の作品の人気は絶大なものであった。しかし、流石に典型的な「時代の子」であった故か没後(1880年)は出身地ドイツを除いてフランスでもその人気は急速に凋落していった。唯一の未完のオペラ「ホフマン物語」を除いて実際の舞台上演では忘れ去られていたオッフェンバックが20世紀末から復興してきたことは非常に興味深いものがある。

さてこのアルバムでのオッターのあるが、オペレッタであるとはいえ気楽に歌い流すということはせずあくまでも正当派の端正な歌唱を聴かせている。彼女のスタイルは同じオッフェンバックを得意とするアーノンクール一派ともいえるブルガリア出身の人気メゾ・ソプラノ、ヴェッセリーナ・カサロヴァともかなり趣きを異にしている。オッターはイタリア・オペラを除けば広大なレパートリを誇っているが、どんなオペラやリートにおいても如何にもインテリジェンス溢れる生真面目なスウェーデン人という居住まいを崩すことはない。従って、この北の政所さま(我が畏友、奥田氏が使うオッターへの尊称)の歌にはオッフェンバックの音楽が持つ破天荒さやある種の退廃的な雰囲気は望むべくもない。ただ、あくまで個人的な趣味だが、明晰で愉悦に満ちたスタイリッシュな彼女の歌唱にはオッフェンバックを聴く上では何の支障も感じてはいない。

尚、つい最近この録音時に録画されたと思われる”オッフェンバックの夕べ”というDVDも発売されたようである。因みに、このエントリのタイトルは「ホフマン物語」で最も有名なバルカローレの歌詞の出だしの部分であり、勿論このアルバムでも聴くことが出来る。


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November 02, 2005

Beverly Sills Artist Award for Young Singers

3ヶ月以上に渡ってちょっとした個人的な事情によって更新することが出来ず、それにも拘わらずこの間ご訪問して頂いた皆さまには誠に申し訳なく心からのお詫びを申し上げます。心機一転という意味も込めてblogのデザインをちょっと変更してみました。今後もよろしくお願いします。

復活第一弾はやはり音楽の話題が相応しいかと思い、かつての名ソプラノの名を冠して創設された音楽賞の話題。

Beverly Sills Award Established at The Metropolitan Opera

beverly_sillsオペラの舞台を引退したあともN.Y.シティオペラの監督、リンカーンセンター、METの会長などを務めたベヴァリー・シルズの名を戴いた米国の若手オペラ歌手育成を目的とした奨励金制度($50,000)が創設されたことをMETが10月26日にアナウンスした。その対象となるのは、25~40歳で既にMETにおいてソロの役を歌った実績を持つ歌手で米国市民であることが条件となっている。シルズ自らが選考委員長となり、最初の受賞者は2006-07シーズンに発表される予定。

ベヴァリー・シルズ(本名Belle Miriam Silverman)は1929年5月25日にブルックリンでロシア系ユダヤ人の移民の子供として生まれ、幼少の頃から音楽的な才能を発露させていたらしい。1936年には正式な声楽のレッスンを開始するとともに、CBSラジオのオーディションに合格し彼女の歌声が毎日曜日に全米に放送された時期があったようだ。

シルズは16歳の時にギルバート&サリヴァンのオペレッタでプロとしてのステージ・デビューし、、1947年にはカルメンのフランキータ役でオペラの舞台に初登場を果たした。S.F.オペラを含むアメリカ各地のオペラでキャリアを積み、1955年には生まれ故郷であるN.Y.シティ・オペラに「こうもり」のロザリンデでデビューし、批評家からは高い評価を得た。彼女は1956年に結婚し二児を得たが、障害を持ったお子さんだったためその世話をするために一時期歌手としてのキャリアを中断せざるを得なかった。

1966年にやはりN.Y.シティーオペラにおける「ジュリアス・シーザー」でのクレオパトラを歌っての大成功によって彼女が世界的な名声を確立する切っ掛けとなった。60年代後半にはヴィーンをはじめとしてヨーロッパのメジャーなオペラハウスへのデビューを果たした。しかしながら、彼女の地元であるMETへの扉は1975年に「コリントの包囲」で登場するまでは開かれなかった。

シルズはその全盛期のキャリアをN.Y.シティ・オペラで過ごしたことが原因でオペラ録音の中心であったヨーロッパからは外れていたため、米国でのその名声の割には現在聴くことができるオペラの全曲録音の入手はそれほど容易ではない。ドニゼッティを始めとしたプリマ・ドンナ・オペラのディーヴァとしてカラス、サザランドと比べても決して劣ることない歌唱はベスト盤などでアリアの一部しか聴くことが出来ないのは残念である。彼女の特徴はなんといってもその明るく華麗な歌声と明確なディクション、そして確かなコロラトゥーラのテクニックである。その舞台での女優としての卓抜な演技力も彼女の人気を支えた一因と言われている。

手元に資料がないので正確な日時は判然としないが、シルズが引退(1980年)する直前に確かサンディエゴ・オペラ(?)でサザランドとの「夢の共演」が実現したことをサザランドの自伝で読んだ記憶がある。

このBeverly Sills Artist Awardの基金を提供したのはMETのボードに名を連ねているAgnes Varisで、この人はニューヨーク民主党のゴッドマザーと呼ばれておりヒラリー・クリントンの強力なサポータの一人である。このAgnes Varisも立志伝中の人で、ギリシア系移民の子として生を受け、ブルックリン・カレッジで化学の学位を受け、その後Agvar Chemicals、Aegis Pharmaceuticalsを創設し薬品業界で成功し慈善事業家としても有名である。

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