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July 16, 2006

Enjoy Baseball & The Pride of Minor

The_pride_of_minorこの夏の甲子園出場を目指して慶應義塾高校硬式野球部(今年の塾高野球部は「全国制覇」というより高い目標を掲げている)が初戦を迎えた7月12日にノンフィクション・ライターである辰濃哲郎氏が上梓された『ドキュメント マイナーの誇り―上田・慶応の高校野球革命』(日刊スポーツ出版社)が発売された。

著者の辰濃氏は塾大学野球部時代にはピッチャーとして神宮のマウンドにも立った経験もあり、塾高野球部監督の上田誠氏とは塾野球部での同僚でもあった。この『マイナーの誇り』は昨年の春に45年ぶりの選抜甲子園に出場を果たし、世間から注目も浴び、奇しくも45年前同様ベスト8の成績を収めた塾高野球部に選抜終了後からほぼ1年間に渡って辰濃氏が密着取材して著したドキュメントである。

Enjoy_baseball上田監督は自ら『エンジョイ・ベースボール―慶應義塾高校野球部の挑戦』(NHK生活人新書;日本放送出版協会)を著されており、この中で高校野球としてはかなりユニークな指導・戦略・戦術・組織論を展開している。上田さんは塾高の英語教諭を務めており、かつて米国UCLAに研修留学した時にヴォランタリ・コーチとして同校のベースボール・チームに係わった際の経験や指導理論を帰国後監督を務める塾高野球部で実戦したものである。ただこれは単に横のモノを縦にしたという単純な方法ではなく、慶應義塾の一貫教育校の一つである塾高という環境と対象が高校生であるということを充分に考慮した大胆なアレンジが施されている。尤も、上田さん自身は塾高だからこのやり方が通用するという論には否定的ではあるが。

上田さんは、『エンジョイ・ベースボール』とは「野球は、本来、明るいもの、楽しいもの。野球が好きで上手くなりたいなら、一生懸命練習しよう」という考え方だと定義し、軍隊のような規律で縛られた「野球道」と対極に位置するとしている。また『エンジョイ・ベースボール』とは選手自ら考え楽しむ野球であって、試合でも練習でも監督が選手をゲームの駒のように動かす野球を否定している。ただ『エンジョイ・ベースボール』とは、面白おかしく、楽しみながら、楽な練習をするということではなく、自分たちで決めたことをきちんと、明るく楽しみながらやるということで、勝つためには猛練習が必要だとしている。

上田さんは、点をやらない「負けない野球」ではなく、点を取る「勝つ野球」の実現を目指してる。具体的には塾高野球部は浅いイニングでの失点の可能性がある場面でも殆ど前進守備はせず、点を取られたら取り返すという考え方である。一戦必勝の高校野球においては大胆かつかなりユニークな戦略である。野球部監督であるだけでなく、教育者でもある上田さんは、選手達(選手である前に塾高の生徒である)に対し野球以外のことにも視野を広げ知的好奇心を涵養するために読書することを勧め、「知的エリート(アスリート)」として将来は塾高野球部からの多様な人材の輩出を願望している。

『エンジョイ・ベースボール』では、上田さんが監督として就任して以来の塾高野球部のチーム改革や、日々の練習方法、ヴォランティアとしての大学生コーチ、ベンチ入りメンバー以外の選手たちのモティヴェーションの維持とチーム力向上のために如何に彼らの能力を活用するかなどが述べられている。

一方、上田さんの塾野球部時代からの友人でもある辰濃氏の『マイナーの誇り』には、上田さんの著書と内容が一部被る部分もあるが、外から観た『エンジョイ・ベースボール』が著されている。辰濃氏は「月刊現代」の2005年8月号に「慶応高校野球部、上田監督の超常識理論 - 高校野球を革命せよ」という記事を投稿されていたが、この『マイナーの誇り』はその後も取材を続け、大幅に加筆されたものである。

辰濃氏は塾野球部の投手時代の選手としての経験を踏まえ、高校野球としては非常識(超常識)ともいえる上田監督の目指す野球を、監督は下より野球部長・副部長・学生コーチ・選手のインタヴュや遭遇したエピソードを含めて様々な角度から『エンジョイ・ベースボール』の本質に光をあてている。

特にフォーカスしているのは、タイトル通りの『マイナー』(塾高野球部では、公式戦や練習試合でのベンチ入りメンバーをメジャーと呼び、ベンチ入りしていないメンバーをマイナーと呼んでいる)の選手達のことである。ベンチ入りを果たせず挫折を味わった彼らに誇りを持たせ、如何にしてチームの目的達成に貢献するのかに多くページを割いている。辰濃氏はこの「マイナーの誇り」こそが塾高野球部躍進の大きな要因の一つであると論じている。また、この『マイナー』とは塾野球部時代には神宮のグラウンドには一度も立つことができなかった上田監督、そして塾高野球部時代は殆どメジャーとして活躍する機会を持てなかった学生コーチ達の『誇り』も意味している。

特に印象的だったのは、辰濃氏が昨年の夏の大会のベンチ入りメンバーを決定するミーティング(監督・学生コーチ、3年生スタッフなど)をオブザーヴした際の20名を決定するまでのやり取りのドキュメントである。これは監督はじめ部内者では語ることが出来ない生々しい記録である。最後の1~2名を決定するときの過程は胸がつまる思いがこみ上げてくる。

この『マイナーの誇り』は、昨年の夏の神奈川大会で準優勝した(というか優勝を逃した)チームの青春譜として読むことも、上田監督の目指す『エンジョイ・ベースボール』のコンプリメントとして、あるいは高校野球部という組織を通した普遍的な組織論として読むことも可能である。

上田監督の『エンジョイ・ベースボール』を読まれて、その内容に関心を持たれた方にはお勧めしたい1冊であるし、今年の夏の大会は既に始まってしまったがもし時間があれば現在の塾高野球部の選手諸君にも是非とも一読して頂きたい。




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