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November 05, 2005

Censored Democracy

embracing_defeat米国の友人に勧められ出版されてすぐ原著を入手し読み始めたが、英文でもあり大作なので半分も読了できず挫折しそのまま放置しておいたのが”Embracing Defeat: Japan in the Wake of World War II”(John W. Dower)である。著者であるジョン・ダワーはこの著作で1999年のピュリッツァー賞を受賞した。2001年には日本語訳である「敗北を抱きしめて - 第二次大戦後の日本人」(第1回大佛次郎論壇賞・特別賞受賞)が岩波から出版された。先日この日本語版を再読してみたが、正直言って翻訳されたものでも読了するにはかなりタフなものがあった。

この作品は出版当時からかなり話題にもなったし、リンク先の紹介記事を読んで頂ければ内容に関する概略はお解り頂けると思うのでいまさらその全体の解説めいたものをここで述べるつもりはない。ただこの日本語版を読んで個人的に最も印象的な部分の内容に関してご紹介をしたい。

どうのように解釈し思い巡らすはともかく、日本の近・現代史には人並み以上の関心や知識を持っていると自負していたのだが、この本の第14章の「新たなタブーを取り締まる - 検閲民主主義」の内容には虚を突かれた思いを禁じ得ず、自らの無知さを思い知らされた。

ダグラス・マッカーサーを最高司令官としたSCAP(Supreme Commander for the Allied Powers)は敗戦国日本を絶対的・超法規的な権力をもって当時としても少々時代遅れな典型的コロニアル・スタイルで支配し、残存した政治機構をそのまま(天皇制さえも)利用し間接統治したことは周知の事実である。絶対権力者マッカーサーの意思を体現したSCAPは戦前の超国家主義・全体主義体制の日本に回帰することを徹底的に防止するため、ありとあらゆる手段を用いて「民主主義」(ダワーはこれを「天皇制民主主義」と呼んでいる)の浸透を図った。しかし、この「民主主義」は連合国特に米国に対し二度と再び弓引くものではない、という但し書き付きではあったが。

民主主義といえば、その対句として「言論の自由」という言葉が容易に思い浮かぶのだが、このある種のアクシデントのように天から振ってきた民主主義には完全な意味での言論の自由は付帯してはいなかった。

軍国主義、国家主義、戦争擁護のプロパガンダ、封建的価値の賛美などの禁止の煽りを受けて歌舞伎など古典芸能の上演や時代劇映画(いわゆるチャンバラ映画)の制作などに大きな制限が加えられたことは良く知られているが、GHQの民間検閲部:CCD(Civil Censorship Detachment)が実施した検閲活動での禁止事項は想像を遙かに越える広汎なものであった。しかもその禁止事項のなかには、検閲が行われていること自体を決して公式に認めてならない、という周到な項目まで含まれていた。事実当時の出版事業者に送られた極秘通告には、「検閲の具体的証拠(墨での抹消、伏せ字、余白を残す等)を残してはならない」と言及されていた。

この占領下での検閲は、戦前の日本でほぼ15年に渡って行われていたものほど強圧的ではなかったが、その両方の経験者はCCDのやり方は「真綿で首をしめるようなもの」だったと述懐している。その範囲は新聞、雑誌、教科書、一般書籍、ラジオ、映画、演劇とあらゆる形態の報道や演劇表現に及んでいた。それに加えて郵便物の抜き取り検査(4年間に3億3千万通)や、通話の傍受なども頻繁に行われていた。

CCDは勝者に対する批判に関しても徹底した禁止事項を設定していた。この検閲で隠蔽された情報は、「大」は日本政府が負担した占領軍維持経費が当時の国家予算の1/3にも達していたことから、「小」は「焼け跡の菜園雨に打たれたり」という句を「アメリカ合衆国に対する批判」として禁止ということまでに及んでいた。

「上からの革命」とも言われている戦後民主主義の遺産としての、権力を受容するという社会的態度の延命、政治的・社会的権力に対する集団的諦念の強化、沈黙と大勢順応が望ましい政治的知恵だという態度が、時が過ぎて外国人が極めて日本的とみなすようになったと著者ダワーは述べている。

ジョージ・オーウェルの小説『1984年』は1949年に出版されたが、そこで描かれている徹底した情報管理社会は1945年9月から4年間ではあるが、既に日本で実現されていたことになる。皮肉なことに、その後の東西冷戦下では双方が相手を攻撃するプロパガンダとしてこの『1984年』を利用した。


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Comments

お久しぶりです。復活おめでとうございます。更新されないので、心配しておりました。狭い世界に住んでいる小生にとって、いろいろ視野を広げるさまざまな話題、今後も楽しみにしております。

Posted by: だぽ. | November 07, 2005 at 01:18 PM

>だぽ.さま

ご無沙汰しております。更新をサボっていた間もご訪問頂いたようで、ご心配おかけして申し訳ありません。大したことは書けませんが、これからもご贔屓のほどよろしくお願いします。

Posted by: Flamand | November 07, 2005 at 01:58 PM

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