« Inappropriate activities? | Main | The KEIO boys boost up abilities of "Enjoy Baseball" »

May 11, 2005

La méthode française de chant ~ pleurant, écorcement


近頃の弊blogのエントリは当初目論んでいた内容から大幅に逸脱しており(「擬藤岡屋」というblogタイトル的には寧ろ相応しいともいえるのだが)、オペラ・クラシック音楽の話題を期待されてご訪問頂く方々の期待を裏切り続けているので、今回は久しぶりにおフランスのオペラのお話。

先月の23日の深夜から明け方に掛けてNHK BS-2で放映されたジャン・フィリップ・ラモーの遺作オペラ「レ・ボレアード」(Les Boréades)を録画しておいたのだが、昨日まで再生して観る時間が取れなかった。

フィレンツェからルイ14世の宮廷にやって来たジャン・バティスト・リュリ(1632-1687)によってフランス・バロック・オペラは確立された。彼はフランス古典悲劇の朗誦法に則りフランス語のアクセントを重視した自らトラジェディ・リリーク(Tragedie lyrique )と呼んだ彼のオペラはメロディを重視した当時のイタリア・バロック・オペラとは明らかに一線を画する存在となった。(タイトルは忘れたが、以前読んだ白水社のクセジュ文庫の本で、「バロック音楽はフランスには存在しない、我々のは『古典音楽』だ」と言っていたのは、パイヤールだったか?)

エール(アリア)とレシタティーフの区別が判然としない瞑想的かつ叙情的なスタイルやフランス・オペラといえばバレーが必須というフォーマットもこのリュリ(バレーの踊り手としては名手だったらしく、実際にフランス宮廷へのデビューも踊り手としてだった)が確立したものである。

「レ・ボレアード」を作曲したラモーはリュリが死去する4年前の1683年にブルゴーニュはディジョンの教会オルガニストを父に生まれた人で、世代的にはリュリとは殆ど重なるところはない。オペラ作曲者として大きな名声を得たラモーはリュリの隔世の後継者であるのは間違いのないことろであるが、その生涯でオペラに手を染めた時期は意外に遅く、処女作のトラジェディ・リリーク「イポリーとアシス」を作曲したのは既に50歳を過ぎていた。それまではオルガニスト・音楽理論家として一家を為していたようである。

ラモーはオペラを30作余り作曲したと言われているが、楽譜の不備などの事情でオペラ作家というよりは、これまではクラヴサン曲集での名声が高かった。彼のオペラの作風もこのクラヴサン作品からも想像できるように、リュリに比べるとバロックというよりはロココの繊細な雰囲気が漂っている。

元々イタリアで誕生したオペラであるが、このラモーの時代にはオペラにおける歌唱法は当然のごとくイタリアン・スタイル(所謂ベルカント)が西欧音楽社会においてはデ・ファクト・スタンダードの地位を獲得していた。但しフランスだけは事情が違っていたようである。時代は前後するが、モーツァルトをはじめとしたイタリアン・スタイルの歌唱法を知る外国人たちは、体験したフランスで演じられるオペラの歌唱の酷さを一様に非難している。

当時のフランスの歌手たちはやたら大声で叫ぶ(時として吼える)という唱法で、フランス以外では全く通用するシロモノではなかったらしい。当時の百科全書派であったフランス人のジャン・ジャック・ルソーですら、その著書「新エロイーズ」の中でフランス人歌手の酷い歌唱を口を極めて罵っている。

1752年にフランスに巡演したブフォン一座のイタリア・オペラの公演(チマローザの「奥様女中」)を切っ掛けに、有名なブフォン論争(Querelle des bouffons )が起こった。これはフランス音楽とイタリア音楽の優劣に関して殆どのフランスの知識人を巻き込んだ一大音楽文化論争だったようである。この論争の焦点は、歌唱法というよりはイタリアの旋律重視とフランスの和声重視の対立であった。イタリア派からの批判の矢面に立たされたのは当然当時の大家であるラモーであった。その結果として、トラジェディ・リリークを中心としたリュリやラモーのオペラは急速に聴衆の支持を失っていった。それ以降に起こるのがグルックのオペラ改革である。つまり、イタリア・オペラに対する最後の砦が陥落したわけである。

ところで、この「レ・ボレアード」であるが、 ウィリアム・クリスティ指揮レザール・フロリサンの演奏で2003年4月にパリのオペラ座(ガルニエ)で録画されたものである。出演した歌手たちはバーバラ・ボニー(個人的にはこの人の声はちょっと苦手)、アンナ・マリア・パンザレラ、ポール・アグニュー、 トビー・スペンスなどアングロ・アメリカン系を中心とした多国籍部隊で、バレーはエドゥアルド・ロックの振り付けによるモダンなものである。音楽的時代考証はきちんなされた演奏であろうが、一点だけオーセンティシティに問題ありとすればその歌唱法であろう。先に述べたモーツァルトやラモーの言を信ずるならば、当時はこんなに美しく歌われていたはずがない!かと言って、当時の歌唱法でこのオペラを聴きたなどとは努々想わないが。

肝心のオペラとしての「レ・ボレアード」は、バロック・オペラによくありがちな人格を持った神々の恋愛劇が例によって馬鹿馬鹿しくも荒唐無稽なストーリ展開をするのであるが、やはり典型的なベルカント・オペラ(唱法ではなく、様式という意味で)とは大分趣を異にする作品である。良く言えば上品で瀟洒とも言えるが、ラモーにそれを求めるのが間違いではあろうがベルカント・オペラの最大の特徴というべき超絶技巧の歌唱による極端にまで日常性を排した「驚嘆の詩学」が感じられない。聴かせ所はいくつかあるものの、正直言って少々退屈な3時間であった。



|

« Inappropriate activities? | Main | The KEIO boys boost up abilities of "Enjoy Baseball" »

Comments

トラックバック、ありがとうございました。

バロックオペラ考証、イタリアオペラとの確執、大変面白く読ませていただきました。良い、悪い、は別にして、わたしの耳はイタリアオペラにチューンナップされているようです。(^_^;) バロックオペラとイタリアオペラの対比は次の短い言葉が的確に捉えていると思います。

>良く言えば上品で瀟洒とも言える
>超絶技巧の歌唱による極端にまで日常性を排した「驚嘆の詩学」

Posted by: 【篠の風】 | May 12, 2005 at 03:15 AM

音楽関係エントリの復活、大歓迎です。

>「バロック音楽はフランスには存在しない、我々のは『古典音楽』だ」
フランスでは1950年代までは、フランス17世紀について「バロック」という語を用いると、直ちに教師から、「古典的均衡への志向を本質とするフランス精神に『バロック』は存在しない。フランス17世紀は『古典主義』」と正されたそうです。今は、リュリでもプッサンでもコルネイユでも「バロックであると同時に古典主義」と形容して当然視されますが。

>当時のフランスの歌手たちはやたら大声で叫ぶ(時として吼える)という唱法
>一点だけオーセンティシティに問題ありとすればその歌唱法
当時の外国人フランス訪問者が語る「Urlo alla francese」は、文字通りガナって歌っていたというよりも、国際標準であったイタリア・ベルカント唱法に慣れた聴き手には、フランス・オペラの「歌う」よりも言葉を強調した「朗誦」は耳障りに響いたという意味のようです。当時の声楽教本も、声楽技術そのものよりも音律法(プロゾディー)を強調しています。18世紀半ば以降ルソーのフランス音楽批判の影響もあり、イタリア式歌唱のフランスへの密かな浸透によってデクラマシオンの角がある程度取れる傾向もあり、フランスでダ・カーポ・アリアを取り入れた最初の一人であるラモーにそうした面を認めることも可能でしょう。クリスティー下の歌唱は、そうした歌唱様式に基本的に対応していると思います。

>バーバラ・ボニー(個人的にはこの人の声はちょっと苦手)
仏紙批評は、フランス語が全く解らんとクソミソでした。私はゾフィー、ズデンカなどでは、まあ嫌いではありませんが。

>正直言って少々退屈な3時間
フランス・バロック・オペラは、あの退屈なパイヤールの演奏に較べると、古楽器演奏により目覚しく刷新された分野ではあるけれど、やはりそういう面はありますよね。
個人的には「ボレアード」は、和声法のオリジナリティーとオーケストレーションの多彩さ(管用法の多彩さ、2部に分かれるチェロなど)で、ラモーのオペラ中でも傑作の部類に入ると考えています。

Posted by: Gerhard | May 23, 2005 at 10:14 AM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/17025/4078866

Listed below are links to weblogs that reference La méthode française de chant ~ pleurant, écorcement:

» 「クラシック」でブログ検索してみました。 [日刊カタログ]
「 クラシック 」の検索結果で、「擬藤岡屋日記 .. 」さんを紹介させていただきました。つながり系サイトです。 [Read More]

Tracked on May 14, 2005 at 06:42 AM

» 『レ・ボレアード』(パリ・オペラ座) [orfeo.blog]
NHK BS-2にて視聴。 ラモー作。バクトリアーヌ国の女王アルフィーズは北風の神ボレアスの血筋から婿を選ばなければならない。しかしアルフィーズは恋人のアバリスとの結婚を望み、怒ったボレアスに監禁され... [Read More]

Tracked on August 05, 2005 at 08:34 PM

« Inappropriate activities? | Main | The KEIO boys boost up abilities of "Enjoy Baseball" »