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January 07, 2005

Misleading ~ Lexus in the U.S.

遅ればせながら、謹賀新年・賀正・あけましておめでとうございます・・・。

このところエントリの更新が殆ど冬眠状態(以前より個人的には「冬眠」という言葉の響きには大いにそそられるものを感じているのだが・・・)の体たらくで、わざわざ御訪問頂いた皆さまの期待を裏切り続けており恐縮の至りである。

2005年最初の話題は、トヨタが満を持してこの8月に国内市場に投入を予定しているレクサスに関するお話。このことは昨年5月にトヨタから発表されており、既にご存じの方もおられると思う。ここで取り上げた理由は、読売新聞の経済面で新春から始まった特集「ものずくり進化論 ~ 第一部ニッポンの現場力」でトヨタ自動車が取り上げられており、その冒頭でレクサスの話題に触れていたことが切っ掛けである。

明確に述べられてはいないのだが、この特集は製造現場の「ものづくり」に再フォーカスし、日本経済の復活の原点にしようという意図があると思われる。謂わば「部分最適化」が「全体最適化」に繋がるという、オールド・エコノミーの復権というコンテキストのようで、その心情は理解できないでもないが個人的には何を今更という感がある。(本日からは、キヤノンのセル生産方式が取り上げられているが、個人的にはキヤノンの真の強さの源泉は「独自技術」へのこだわりにあると思う。)

ただ、レクサスが米国高級車市場で成功した原因が「匠の技」による車の持つ圧倒的な高品質に依るものであるという印象を与える内容の記事には大いなる違和感を覚えた。確かにレクサスのプロダクトとしての高品質が米国マーケットにおいて高く評価されたことは事実ではあるが、これは成功要因の一部に過ぎない。

1990年代後半からレクサスの成功は米国のマーケティングの世界でも注目を浴びており、そのケース・スタディもいくつか読んだこともあるし、マーケティングのトレーニング・プログラムで取り上げられたこともある。(プライヴェートな開催ではあったが、このプログラムを何度か実際にファシリテイトした経験もある。)

1980年代にはトヨタをはじめとして日本の自動車メーカは米国の小型車市場において、高品質な製品や燃費効率など高コスト・パーフォマンスな車の供給者として一定の地歩を固めていたが、容易に手を出せないでいたのが高級車(Luxury car)市場であった。

トヨタはこの未開拓分野であった高級車市場に参入するに当たって、トヨタからは全く独立した”Lexus”というブランド構築を試みた。ターゲット顧客としては経営者、企業のエグゼクティヴ、医師、弁護士、大学教授・・・といった所謂”プロフェッショナル”と呼ばれる層に狙いを定めた。このターゲットからはショファー・ドリヴンのリムジンのオーナや車に”Fun to drive”(イタリアン・エキゾティック・カー、ポルシェなど)を求めるユーザは外された。そして、ヨーロピアン・ラジュアリー・カー(Merceds,BMW,Jaguar,Volvo,Saab)のオーナをプライマリ・ターゲットとし、敢えて既存のトヨタ・ユーザはセコンダリ・ターゲットとした。

レクサスの成功要因で最もユニークかつ大きな貢献をしたのがディーラ政策であった。それまでの米国の一般的なカー・ディーラとは圧迫セールスの代名詞のような存在で社会的にあまり良いイメージを持たれていなかった。しかも、ディーラ同士が同じブランドの値引き合戦をするというカーニヴァライズ行為でその利益を大きく圧迫していた。

トヨタは顧客との直接的な接点を持つディーラをレクサスのブランド価値創造のセンター・ポントとして位置づけた。レクサス・ディーラは既存のトヨタ・ディーラとは独立した(あえて避けた?)ネットワークとし、ディーラ同士の地域的な競合を避ける配置を行った。ディーラの店舗スタイルやスタッフもそのターゲット顧客に相応しいものとし、購入・メインテナンス・買い換えなどの顧客との接点において「最高のブランド体験」(Experience)を提供する仕組みを作り上げた。

レクサス・ディーラのオペレーションの実例を幾つか紹介すると、

1. それまでのカー・ディーラのイメージを一新するような豪華な内装の店舗と洗練された接客を教育されたスタッフ。
2. 時に顧客と接触するメインテナンス作業員の制服(所謂つなぎ)は1日2度着替えさせる。
3. 週末には無料洗車サーヴィスを実施し、その際にはフリー・ブレクファーストを提供。
4. 顧客に代車を提供する必要がある場合には、レクサスの最高級グレードを提供。
5. シカゴのレクサス・ディーラでは顧客がオヘア空港の朝一番機の搭乗前に車を預けられるように、朝5時からメインテナンス工場をオープン。
6. レクサスの中古車としての価値を維持するため、周辺地域の中古車ディーラの在庫に目を配り、中古のレクサスが市場出た場合はレクサス・ディーラが即座に買い取りメインテナンスを施し自ら販売する。

このようにカスタマ・リレーションにおいてハイレベルな「顧客体験」を提供することと、常に需要に比べ供給を抑えることによって、カスタマ・インサイトにおけるレクサスの高いブランド価値を維持することに成功した。

結果としてディーラは一切ディスカウント無しの販売が可能となり、他のディーラに比べて圧倒的に高い利益率を確保し、それを原資に顧客サーヴィスに充てることができた。レクサス・ディーラ同士の競合がないので、あるディーラが独自に行った効果的な顧客サーヴィスをBest Practiceとしてシェアすることも可能になった。当然の事ながらレクサス・オーナのRetention rate(次もレクサスを購入する)も競合ブランドに比べて圧倒的に高い値を維持することができた。

例えば、日本市場でもヤナセなどの優秀なセースルマンであれば同じようなブランド体験を顧客に提供することが出来るかもしれないが、米国でのレクサスはそれをシステマティックに行っているところに大きな違いがあるように思われる。

この夏、トヨタが日本市場でどのようなレクサスの販売戦略を展開するのかは定かではないが、すでに日本市場でも高級車市場のセグメントで一定のシェアを確保しているヨーロッパ系のプレステージ・ブランドの車を扱うディーラとどのような競合関係が生じるのかはなかなか興味深いものがある。





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Comments

復活おめでとうございます。今後とも息長く続けて行かれますよう、切に望みます。

感想です。

1.ちょうど、今(遅ればせながら)「上司は思いつきでものを言う」を読んでいるのですが、お客様との接点であるディーラーをブランド価値創造のセンターポイントと位置づける、というのが一つのポイントであるように思います。それは、価値創造のためのサーヴィス供給者というだけではなくて、そのための戦略を練るための情報収集及び意思決定の一部としても機能したのではないかと想像します。現場と組織の乖離ということを常々考える我が身、この話も(橋本本と並んで)刺激的でした。

2.1から6の諸点については、なるほどねぇ、と思わせるような所もありますが、日本のサービスならこういうきめ細かいこともありそうだなぁ、と。欧州も基本的にお客様に喜んでいただくなんて発想は車売っている人や修理している人にはないですから、アメリカも同じかな、と思います。そういう土壌であれば、ご指摘のように、システムとしてやったところが違う、と言うこともあるでしょうが、もともとサービス慣れしていない人々にとっては新鮮だったのではないでしょうか。

3.2とも関連しますが、日本では、う~ん、どうでしょうね。まず、サービス慣れしている日本人には同じ戦略は通じないでしょうし、レクサスは「トヨタ」であることはみんな知っているので、全然質的に違う網を作ることができるのかどうか。。。確かに興味深いですね。

Posted by: ガーター亭亭主 | January 07, 2005 at 09:01 PM

コメントありがとうございます。今年もよろしくお願いします。

トヨタの米国高級車市場への参入は1983年8月に当時の会長豊田英二氏によって決定されたと言われていますので、実際にレクサスをリリースするまでには6年の歳月をかけています。恐らくその間にトヨタは米国小型車市場で確立した「トヨタ・ブランド」のイメージがこの未開拓市場では寧ろ邪魔になると感じ取ったのでしょう。従って、敢えて社名をマスクしてレクサスというブランドを確立することを決心したのだと思います。

このブランド名と提供企業名との間には微妙な関係があるようで、ブランド・マネジメントの雄とも言うべきP&G社は米国での製品のプロモーションの際は社名は一切表に出さないようですが、日本においてはTV-CFの最後には必ずP&Gのロゴを入れています。どうやら、日本では「トヨタのレクサス」ということになりそうな気配です。これは市場の特性によるものでしょうね。

このレクサスの成功事例や近頃の不祥事で廃業やそれに近い状況に追い込まれた企業を見るにつけ、「ブランド」とは企業や組織の内側に存在するものではなくその顧客の心理に存在する非常に壊れやすいものだという想いを益々深くしております。

従って、その顧客が供給者とのすべてのタッチポイントにおいて望むモノやことや嫌うこと(これも重要です)を深く洞察し(お客様は得てして率直な物言いをしないものです)、それを実現するための実行力がその企業や組織の死命を制するといっても過言ではないと思います。

Posted by: Flamand | January 08, 2005 at 03:02 AM

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