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June 21, 2004

Wach auf, es nahet gen den Tag

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1868年6月21日、ミュンヒェンの宮廷歌劇場(現在のNationaltheater)において『ニュルンベルクのマイスタージンガー』(Die Meistersinger von Nürnberg)が初演された。

オペラ・ハウスのレパートリとなっている単独のオペラとしては、最も長い上演時間が必要とされる作品である。(20世紀以降の作品で、これ以上の上演時間の作品があるかもしれないが、寡聞にして知らない)

確かに、このオペラの上演は何回かライブで体験しているが、舞台上、オケピット、そして観客、それぞれにそれなりの体力が要求される。しかし、個人的な感覚ではいつ終わるか分からない第二幕のラヴ・デュエットが延々と続く『トリスタンとイゾルデ』よりは、終幕後の疲労感は遙かに少ない。

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ごく初期の作品を除くと、ヴァグナーのオペラでは唯一のコメディであり、神話・伝説ではなく実在の人物ハンス・ザックス(Hans Sachs)を主人公としており、珍しく劇中では誰も死なない。(第二幕の乱闘シーンでは、実際には死人が出ているのかもしれないが・・・)

このオペラの人気の理由は、上述した彼の作品にしては比較的親しみすいシチュエーションに加えて、この作曲家にしては珍しい程のサーヴィス精神を発揮して聴衆に対して多彩なパースペクティヴをもたらしていることであろう。

権威主義とそれに対する挑戦、寛容と厳格、新旧の世代間対立、諦念と情熱・・・、このオペラにはこれらが縦横に織りなされてドラマが展開して行く。そして、ドラマ『水戸黄門』も裸足で逃げ出すほどの、大団円が終幕には用意されており、その舞台の豪華さも際だっている。

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歌合戦直前の五重唱はヴァグナーが書いた音楽の中で、最も美しいものの一つであり、見所と聴き所満載のオペラであるが、個人的には合唱の素晴らしさは特筆に値すると思う。本タイトルの”Wach auf, es nachet gen den Tag・・・”は歌合戦会場でマイスター達の入場後にコーラスで歌われもので、これを聴くと「もしかして、ヴァグナーってそれほどの悪人ではなかったのでは?」と錯覚を起こしてしまう。開幕後冒頭の聖カタリナ教会で歌われる合唱とともに、このオペラでの白眉の一つである。

このマイスタージンガーは、『フィデリオ』『フライシュッツ』などとともにドイツ人にとっての特別な感情を刺激するオペラで、劇場での盛り上がり方は尋常ではない。普段は、幕が下りてもオーケストラの音が止む前の拍手は顰蹙ものであるが、このオペラばかりは大拍手の中で幕が下りてくるのが一般的。ヴィーンのシュターツ・オパーではマイスター入場の場面でも一々聴衆から拍手が沸く。

幕切れ寸前の「たとえ神聖ローマ帝国は雲霞と消えうせるとも、神聖なドイツの芸術こそわれらの手に留まる・・・」という歌詞にいたく国粋主義的気分をくすぐられたようで、ヒトラー及びナチもこのオペラを格別に好んでいた。1938年のニュルンベルクで開催した党大会では、フルトヴェングラーとヴィーン・フィルを招聘しヒトラー臨席の下で上演された歴史がある。


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Comments

Ehrt eure deutschen Meister, で始まる最終の合唱ですが、わたしも外国人なので、いつもこの歌詞を歌うのは心のどこかで抵抗を感じています。 Zubin Mehta 氏は練習の時にdeutschen Meister の部分を自分で indische Meister と吹き替え、歌いながら指揮をしています。(^_^;) 
さて、あと1週間と迫ったミュンヘンの「マイスタージンガー」 Premiereですが終幕後、従来のような拍手が起こるかどうか、わたし自身も興味津々です。(^_^)

Posted by: 【篠の風】 | June 22, 2004 at 10:50 PM

1951年のバイロイト音楽祭再開時に上演されたマイスタージンガーのライブ録音が残っています。演奏全体はカラヤンのやや押さえ気味の表現が支配していますが、終幕の観客の熱狂ぶりは充分に感じとれました。戦争が終わって6年余りの演奏と観客、この6年を長いと見るか短いと見るか、初めて聴いたときは不思議な感慨を抱きました。

Posted by: Flamand | June 23, 2004 at 02:02 AM

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