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April 29, 2004

A Legendary Dilettante

beecham.jpg

ネタが無いときに安易に頼る、誕生日&命日シリーズである。

本日4月29日は、音楽関係者の特異日の一つのようである。カール・ミレッカー、デューク・エリントン、ズービン・メータの誕生日であり、日本の本格的なオペラ上演の恩人とも言うべきマンフレート・グルリットの命日でもある。そして本日の目玉は、御大サー・トマス・ビーチャムの誕生日である。

我が国のクラシック音楽の受容史において独墺系の影響力が圧倒的であったためか、いわゆる『巨匠の時代』で選好される指揮者の殆どが独墺系の独占状態でかなりの偏りがある。これが英米(こちらも、違う意味で大いに偏りがあるが)においては、かなり様相が違っており、特にオペラの分野ではコヴェント・ガーデンやMETで活躍した指揮者の重みが俄然増してくる。

その評価で最も大きなギャップがある指揮者の一人がこのビーチャムであろう。彼の出自も我が国においては巨匠に列せられるのに邪魔になったのかも知れない。サー・トマスは当時のThe Beecham's Pills(便秘薬で、その当時はかなりいかがわしい使われ方もされたらしい)という売薬で有名だった製薬会社(現在ではGlaxoSmithKlineに統合されている)の御曹司として生まれ、生来の音楽好きが高じて指揮者になったという究極のディレッタントである。その地位や名声を得る源泉として、持てる金力に物を言わせたのは当然のことである。正に、道楽息子の旦那芸の極致であった。

ただ、単なる金持ちの旦那芸であれば、いくら自国民に贔屓が強い英国とはいえ巨匠とは呼ばれなかったはずで、確かに彼の残した音楽の録音を聴くとユニークな特徴を持っている。独墺系のマエストロ達のように、その音楽に深い精神性を求めると肩すかしを喰うが、サー・トマスが追求したエンタテインメントに徹した音楽では他の追随を許さないものがある。

ビーチャムといって、真っ先に思い浮かぶのが『メサイア』である。ユージン・グーセンスに編曲とは名ばかりの、殆ど改竄に近い仕事を依頼したこの『メサイア』はオーセンティックな古楽ファンから石が飛んできそうな爆裂名(迷)演である。絢爛豪華、気宇壮大、ようするにgorgeous & dazzlingなのである。この演奏、あたかもプロムス・ラスト・ナイトの喧噪にも似ている。ここいらへんが、ビーチャムが軽んじられる原因になっているのかも知れない。(店主はこの手の遊びは大好物である)

ただ、ビーチャムが際物だけを追求した指揮者と決めつけるのは大間違いで、彼の振るディーリアスを筆頭としたイギリス物、モーツァルト、ハイドン、ビゼーなどのフランス物(French Lollypopsは抜群!)、ヴァグナー、リヒャルト・シュトラウス、一連のオペラで聴くことができる大らかで風格のある音楽作りは現代の指揮者からはなかな聴くことはできない。その広大なレパートリも驚くばかりである。

店主が特に好んで聴くのが、『英雄の生涯』である。内容が空疎、あるいは自己満足音楽とアンチ・シュトラウス派からはやり玉の筆頭に挙げられる作品であるが(so what?)、ビーチャムとの相性は抜群で、構成も確かであり、時として大袈裟な歌舞伎の見得を観るようなウィットに富んだは音楽は耳福の極みである。

トラックバックさせていただいた、『東越谷通信』の「編集日記(1998.08.11分)」と「ビゼー『アルルの女』、シャブリエ『スペイン』他」も参照していただければ幸いである。店主などに比べ、遙かに簡潔かつ的確な文章でビーチャムの特徴を記述されている。

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Comments

これはまた、旧い拙稿へ過分なお言葉を有り難うございました。ビーチャムのビゼーは、かつて大兄にお薦め戴いたようにも記憶していますが。

それにしても、サー・デュークとサー・ビーチャムが同い年、というのも何やら含蓄がありますね。あ、誕生年は必ずしも一緒じゃないのかな??

Posted by: シンク | April 30, 2004 at 07:14 AM

シンクさま、

コメントありがとうございます。

ビーチャムが1879年、エリントンが1899年と丁度20年違いますね。

そいや頼まれもしなのに、やたらビーチャムのプロモーションしていたような・・・。要するにへそ曲がりなんです(^^ゞ

この爺さん稀代の毒舌家で逸話に事欠かない人ですね。戦前のBBC、戦後のPOの創設後てっきり自分が主席指揮者の座に就くつもりで、どちらも見事フラれたりしてツメの甘さがなんとも微笑ましい御仁ですが、音楽界のCSの鑑のような人でもあります。

Posted by: Flamand | April 30, 2004 at 12:58 PM

いえいえ、ビーチャム大人に関しては、大兄のお薦めなかりせば、所詮は旦那芸という先入観を打ち砕く機会を得ることはなかったでしょう。大感謝です。とりわけ「英雄の生涯」はTESTAMENTの名復刻も相俟って、良いものを聴かせて戴きました。そのほかでは、TELDECから出ているビーチャムの映像もなかなか味わい深いです。


エリントンは20歳後輩でしたか。なるほどねえ。個人的には、じっさいにスコアをプレイしたことの多いベイシーのナンバーに、より親しみを感じることが多いのですが、エリントンのアレンジの魔術も捨て難い、というか畏れ多いですね。

Posted by: シンク | April 30, 2004 at 10:17 PM

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