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March 10, 2004

お天気のいい音楽 ~ 小津百科

NHK BS2では、アンコール放送と称してこの3月に入っても小津安二郎の作品を放映している。これまで映画の放映前にその作品にまつわるエピソードを3分ほどにまとめた「小津百科」が流されていたが、昨夜(9, Feb)作品の制作年度順に並べかえて、一挙に37本が続けて放映された。語りは大杉漣。

細切れの状態で見ていたときは、さほど強い印象を受けなかったが、こうしてまとめて見ると、思いの外しっかりと作られている、と感じさせられた。

エピソードの内容は、これまで殆ど語り尽くされているものではあるが、改めて印象に残ったのは以下の2つ。

まず、「早春」でのエピソード。

小津が映画の中に実際にある細かい事実をかなりのこだわりをもって描き込んでいる理由として、「小津さんは、自分の中で良く知っている風景があって、その中で物語が生まれてくる。でもそれは架空の物語、だから大きな嘘のためには、小さなところで嘘をついてはいけないのです。」と助監督を務めた田中康義が語っている。小津の映画は彼自身の日常のリアリティが物語を支えているのである。

次は、「東京暮色」で使われた音楽で、有名な「サセレシア」(「サ・セ・パリ」と「ヴァレンシア」をモティーフにして斉藤高順が作曲)。

小津はその暗い内容とは正反対な、リズミカルで明るい音楽を希望した。理由は、「画面に悲しい気持ちの登場人物が現れていても、その時、空は青空で陽が燦々と照り輝いていることもある。自分の映画のための音楽は何が起ころうともいつもお天気のいい音楽であってほしい。」と自ら語ったとか。確かに、小津の作品で雨降りのシーンは「浮草」とサイレント時代の一部を除いて、殆ど登場しない。

店主は小津映画(特に晩年の作品)を、見始めた頃は物語はドラマティックな起伏に乏しく、テンポが遅く一見退屈ではあるが、日常の家庭生活を丹念に描いたホームドラマである、という巷の評価に首肯していた。

しかし、観れば観るほどこの評価に首を傾げるようになっていったのである。その一例として挙げられるのが、小津映画に登場する人物の会話のテンポはとても尋常とはいえない。実際にあの台詞を喋ってみると分かるが、あんな速いテンポで会話をすることは日常では殆どあり得ない。

世評や、笠智衆の抑制された演技に騙されてはいけない。店主は、小津の作品は思いの外かなり「ヘン」な映画だと思っている。

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Comments

こんにちは、夏川です。
当家は受信環境にありませんので、
観ることができません。
魅力的なプログラムですね。
検討の価値アリですね。

Posted by: 夏川 | March 11, 2004 at 11:11 PM

小津映画の神髄は、彼なりに確立した一つの様式美であろうと理解してます。笠智衆の演技が抑制されたそれなのか、単にそう言われて動いただけであるかは議論の余地がありそうですが.... 本来はモダニストであり、ハリウッドスタイルに憧れ、自身の様式の確立を急いだひとですよねえ。

Posted by: シンク | March 12, 2004 at 12:07 AM

店主様、先日は「青草亭楽屋帳」にコメントを残していただき、ありがとうございました。
小津作品、私も大好きです。もっとも、ご店主のように、慧眼を持って見ているわけではないのですが。あの独特の間、特徴あるセリフ回しには、ハマります。

Posted by: 青草亭 | March 12, 2004 at 09:40 AM

失礼ながら、まとめてご返事いたします。

>夏川さま、
はじめまして。ご来店ありがとうございます。

「小津百科」は、サイレント時代の小津の指向したものを
知るには良い資料だと思います。著作権の問題がクリア
できれば、DVDなどで発売されるかもしれませんね。


>シンク(謎の編集人)さま。
まいど(__)。

サイレント時代の小津は、完全にハリウッド指向の作品が
いくつもあります。
サスペンス映画作家としても一家をなしたのでは?
と思わせる作品もありますね。

恐らく、当時の最先端のモダニストを自任していたことは
室内シーンで部屋の壁にはられているポスターからも窺えます。


>青草亭さま、
コメントありがとうございます。

小津作品はワタシも長年折りにふれ、
見続けているのですが、未だになかなかの難物で、
「小津マジック」は容易に解けそうもありません。

Posted by: Flamand | March 12, 2004 at 12:16 PM

皆さん小津作品に対する高尚な議論をされているところで恐縮ですが、「大きな嘘のためには、小さなところで嘘をついてはいけない」というくだりで、なぜか「名探偵コナン」を思い出してしまいました。
あれって犯罪の手口とかけっこうリアルだったりしますけど、そもそも主人公が小さくなった高校生、というのが荒唐無稽ですよね。大きな嘘は「世界観」として受け入れられるけど、小さな嘘は説得力を失う、ということなんでしょうか。…すいません、つまらないつっこみでした。

Posted by: 山口 浩 | July 16, 2004 at 09:13 AM

コメント&TBありがとうございました。実は、神は細部に宿ると言ったのは、20世紀初頭の美術史家のアビ・ヴァールブルグです。ですので、芸術分野では割と古くから一般的に知られている言葉なんです。

そうですか、小津安二郎氏も同様のことを言っておられたのですね。「大きな嘘のためには、小さなところで嘘をついてはいけない」なるほど、こっちの方がわかりやすいですね。貴ブログで 山口さんが『大きな嘘は「世界観」として受け入れられるけど、小さな嘘は説得力を失う』とコメントされていますが、まさしくその通りだと思います。

Posted by: 藤谷芳浩 | April 15, 2005 at 05:57 PM

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